自然科学書出版  近未来社
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断層地震の連鎖 −断層との対話−

【書評】
 書評 @ 「応用地質」55巻6号85頁/(応用地質学会)
 書評 A 「地学雑誌」2015年124巻3号,N55-N56(東京地学協会)〔評者;高橋正樹〕
 書評 B 「砂防学会誌」(68巻第2号97頁)−砂防学会〔評者;井上公夫〕
 書評 C 「山口地学会誌」(第73号13-14頁)−山口地学会〔評者;今岡照喜〕


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金折裕司著『断層地震の連鎖−断層との対話−』
「応用地質」書評−55巻6号85頁/
応用地質学会,2015年2月発行より転載
 第1章では,西日本の地震の活動度について詳しく解説するとともに,次に起こる南海トラフ巨大地震の想定内容に触れている.第2章では,兵庫県南部地震とそれ以降に起きた大地震について,震災調査で感じたことなどを交えながら報告している.第3章では,兵庫県南部地震以降,日本列島で発生した活断層(内陸)地震に関して得られた知見に基づいて,活断層と地震を捉え直している.第4章では,地震と津波に関して,基礎的な内容も含めて解説するとともに,これまで蓄積されてきた知見や知識を整理している.第5章では,古地震像や,断層と地震に関わった人たちについての話題を紹介,第6章では断層テクトニクスと活断層の運動(活断層地震)の実像に迫っている.第7章では,古文書や史料の記録から,先人のメッセージを理解して,多くの教訓を学んでいる.第8章では,次に起きる南海トラフ巨大地震と活断層地震との因果関係および時系列について,詳しく解説している.
序 章 東日本大震災の謎
第1章 地震の活動期を生きる
第2章 頻発する大地震
第3章 活断層と地震
第4章 地震と津波を知る
第5章 断層と地震の話アラカルト
第6章 マイクロプレート再訪と断層テクトニクス
第7章 過去から学ぶ
第8章 西日本大震災に備える

 A
金折裕司著『断層地震の連鎖−断層との対話−』
「地学雑誌」書評−2015年124巻3号,N55-N56(東京地学協会)より転載
高橋 正樹
 著者である金折裕司氏は山口大学教授で「断層の地質学」の専門家であり,これまでに,『甦る断層−テクトニクスと地震の予知−』『断層列島−動く断層と地震のメカニズム−』『活断層系−大地震発生とマイクロプレート−』『山口県の活断層−地震災害の減災をめざして−』『足元に活断層』など多くの著書を著している。本書はその集大成ともいえるものである。1995年の阪神淡路大震災以来,活断層関係の出版物は数多くみられるが,その中でも金折氏の一連の著作は,活断層に対して独自の考え方と見識を提示している。

 「序章:東日本大震災の謎」では,東日本大震災をもたらしたM9の東北地方太平洋沖地震が予測できなかった巨大地震であること,また,この海溝型巨大地震に連動してスラブ内地震や活断層(内陸)地震が連動して起こったことを指摘し,地震予知が全体のテクトニクスを無視しては不可能であることを強調している。

 「第1章:地震の活動期を生きる」では,安政の地震活動期,昭和の地震活動期,昭和の地震静穏期を経て,1995年の阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)以来,現在では日本列島,とくに西日本が,平成の地震活動期に入っていることを主張している。

 「第2章:頻発する大地震」では,1995年の兵庫県南部地震(M7.3)以降,1997年の山口県北部地震(M6.6),2000年の鳥取県西部地震(M7.3),2001年の芸予地震(M6.7),2003年の宮城県北部地震(M6.4),2004年の新潟県中越地震(M6.8),2005年の福岡県西方沖地震(M7.0),2007年の能登半島地震(M6.9),同じく2007年の中越沖地震(M6.8),2008年の岩手・宮城内陸地震(M7.2)などの地震が頻発し,その最後に東北地方太平洋沖地震が起こったことを述べ,各地震の特徴をまとめている。

 「第3章:活断層と地震」の章は本書の核心部であり,著者独自の活断層に対する見解が展開されている。最近では,活断層は変動地形の一部として扱われることが多いが,変動地形としての活断層は,深部の起震断層の地表への表れにすぎないので,地震断層の実態を明らかにするためには断層そのものを対象にする必要があることが主張されている。とくに大規模な活断層は地質時代に形成された過去の断層が再活動しているものが大部分であり,断層破砕帯や断層末端部や周辺部のプロセスゾーン(ダメージゾーン)の研究が重要であることを強調している。現在起震断層の識別に適用されている地表での断層の幾何学的配列にもとづく「5kmルール」についても,プロセスゾーンを含めた断層運動のシミュレーションを行ってその問題点を指摘している。

 「第4章:地震と津波を知る」では,防災対策に必要な地震と津波に関する一般的な知識を整理している。

 「第5章:断層と地震の話アラカルト」では,大森房吉,今村明恒,寺田寅彦,高島得三,小藤文次郎らの研究者と地震・活断層との関係についてふれ,とくに山口県出身で日本人として初めて地質図を描き,山口県の地質図を最初に完成させた高島得三について詳しく紹介している。彼の山口県地質図には,活断層である徳佐−地福断層がすでに描かれており,高島得三はわが国初の活断層発見者ともいえる。これまであまり名前を知られていなかった山口県出身で郷土の地質図を描いた研究者を発掘し,それを著者の活断層研究と結びつけているところは,本書のハイライトともいえる。

 「第6章:マイクロプレート再訪と断層テクトニクス」では,活断層をテクトニクスとの関連のなかでとらえるべきであるという著者の年来の主張が述べられている。とくに,中国地方の活断層や山口県の活断層,そして横ずれ活断層に囲まれたプルアパート盆地としての山口盆地の形成過程などを,マイクロプレートを含めた西南日本のテクトニクス全体のなかで論じているのは説得力もあり圧巻である。

 「第7章:過去から学ぶ」では,おもに山口県で過去に起きた地震と津波について,古記録との関わりから防災対策にも言及しながら論じている。山口県の古記録をこのように発掘しまとめあげた努力には敬意を表したい。

 「第8章:西日本大震災に備える」では,その発生が危惧されている南海トラフ巨大地震にふれ,巨大震災に備える必要性を説いている。また,山口県内での直下型内陸地震の発生に備えるため,山口県内の大原湖断層系が動いた場合の震度予想図などを例示して,その対策について提言している。

 以上みてきたように,本書には,高い学術レベルを保ちながらも,「ローカル(山口)な視点から一般的・普遍的課題へ」というユニークな視点と哲学が貫徹されているように思える。
 単なる研究者ではなく学者とよばれるためには,視野の広い教養,独自の哲学や独創的な体系性,あるいはとくに地質学の場合には「地域性」に根差した「普遍性」といった背景が必要である。活断層に対する独自の見解と,中国地方西部山口県といった地域性に根差した研究を推し進めてきた金折氏には,その資格が十分にあるように思える。そうした金折氏の研究の集大成ともいえる本書は,活断層がさまざまな方面から注目を集めている現在,いろいろな意味できわめて示唆に富んだ読みごたえのある作品といえるのではないだろうか。広く諸分野の諸兄に一読をお勧め出来る好著である。


 B
金折裕司著『断層地震の連鎖−断層との対話−』
「砂防学会誌」(68巻第2号97頁)−砂防学会
井上公夫/一般社団法人 砂防フロンティア整備推進機構)
 地震の証拠として地表に現れた断層は,私たちに何を語りかけているのだろうか? 本書は,40余年にわたり地震と断層との関係を追及してきた著者の,“断層研究集大成”の書である。

 地震活動期をどう生き抜くか。東日本大震災(2011.3.11)の教訓を学び,迫りくる海溝型巨大地震にどう備えたらよいのであろうか。兵庫県南部地震(1995.1.17,阪神・淡路大震災)の発生後に,地震調査本部が設置され,全国110の活断層の調査が行われ,その結果に基づいて活断層(内陸)地震の長期評価が実施されてきた。そこでは次の内陸地震は,これらの活断層のうちどれかが動いて起こるはずが前提であった。しかし,1995年以降の内陸地震は110活断層以外で起きた。そのことから,「内陸地震はどこで起きても不思議ではない」との誤解も生みだされている。そこでは,地形学的な手法が優先され,地質学やテクトニクスの視点が欠けていた。著者の持論は「内陸地震は,プレート運動で生じる現在の応力場に呼応して,動きやすい地質断層が動いて(再活動),起きている」だという。

 一方では,大震災から私たちは何を学び,何を後世に伝えていくのか。“過去を知り,過去から学ぶ”ことが重要である。地震の発生を食い止めることは人間の手では不可能であり,地震の予知・予測も現状では難しい。私たちにできることは,正しい知識を持ち,来るべき海溝型巨大地震とその前後に起こる活断層とスラブ内地震に備えていくことだと力説する。

  序 章 東日本大震災の謎
  第1章 地震の活動期を生きる
  第2章 頻発する大地震
  第3章 活断層と地震
  第4章 地震と津波を知る
  第5章 断層と地震の話アラカルト
  第6章 マイクロプレート再訪と断層テクトニクス
  第7章 過去から学ぶ
  第8章 西日本大震災に備える

 筆者は近未来社から,1993年に『甦る断層−テクトニクスと地震の予知−』,翌年に『断層列島−動く断層と地震のメカニズム−』を発刊後,兵庫県南部地震の発生を受けて,1997年に『活断層系−大地震発生とマイクロプレート−』を著した。

 本書では,序章で東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0)を科学的に振り返り,想定されていた「宮城県沖地震」との関係について述べている。この大震災から多くの教訓を学び,次に起きる南海トラフ巨大地震に誘発される西日本大震災に生かしていかなければならないと強調する。
 東北地方太平洋沖地震の巨大地震の前に,東日本では2004年に新潟県中越地震(Mj 6.8),2007年には新潟県中越沖地震(Mj 6.8),2008年に岩手・宮城内陸地震(Mj 7.2)など,活断層地震が続発して,海溝型地震に至った。869年に東北地方を襲った貞観地震(推定M8.3)の18年後の887年に仁和地震(推定M8〜8.3)が発生し,大津波で激甚な被害がでている。
 1997年から山口大学(それ以前は岐阜大学)で教鞭を取られていることから,中国地方,特に山口県周辺の地質特性と活断層・地震との関係が詳細に説明されている。山口県北部の見事な活断層写真や断層運動シミュレーションによって,山口市から萩市を通る活断層の存在を教えてくれる。
 第5章「断層と地震の話アラカルト」では,高島得三(雅号北海)との出会いや,彼が日本最初の地質図を作成した経緯が紹介されている。また,小藤文次郎,大森房吉,今村明恒などのエピソードが書かれている。特に,小藤文次郎は1891年の濃尾地震(M8.0)を詳しく現地調査し,地裂線が根尾谷断層と一致することから,「断層が動いて,地震が起きる」とする『断層地震説』を提唱した。断層と地震の有名な研究者の墓が東京都小平市の多磨霊園に眠っているので,一度訪れたいと思う。
 1995年の兵庫県南部地震(Mj7.3)の半年後に,建設省河川局砂防部監修,企画・編集(財)砂防・地すべり技術センター,製作・発行砂防広報センターで『地震と土砂災害』が出版された。その中で,金折(1994)の本から,マイクロプレート・モデルが紹介されていた。兵庫県南部地震と震源断層である有馬−高槻構造線とマイクロプレートとの関係が明瞭に図示されていた。改めて第6章を読むと,兵庫県南部地震はプレートテクトニクスを背景として,西日本の応力場の中で起きた地震だと理解できた。
 第7章では,地震や震災を刻んだ石碑を探訪するとともに,古文書などから多くの教訓を紹介している。これらの石碑は後世の人々に震災の悲惨さを教え,平素から地震に備えることの必要性が説明されている。碑文に刻まれた文字からは,当時の悲惨な震災の様子が生々しく伝わってくる。私たちの祖先は,どのような思いで,これらの石碑を刻んだのであろうか。幕末から明治初めの困難な時期に発生した安政地震(1854)や浜田地震(1872)の地震碑や津波碑を見学したいと思う。
 第8章では,次に起きる南海トラフ巨大地震と活断層地震との因果関係および時系列について,詳しく解説されている。これまで,西日本ではスラブ内地震の数十年後に,南海地震が起きている。2001年に発生した芸予地震によって,次の“南海地震”の引き金が引かれたという。来るべき大震災に備え,自分自身の身体生命を守るためにしなければならないことを強調している。

 本書は私たち砂防研究者にも,地震に起因した大規模土砂災害を調査する上で,貴重な知見を与えてくれる。東海・東南海・南海地震や内陸地震の発生に備えて,地震や活断層に対する基礎知識を醸成しておく必要がある。


 C
金折裕司著『断層地震の連鎖−断層との対話−』
「山口地学会誌」(第73号13-14頁)−山口地学会(2015年5月)
今岡 照喜(山口大学大学院理工学研究科)
 本会会員金折裕司教授(山口大学大学院・理工学研究科)が,最近,標記の書籍を出版されましたので,僭越ながら紹介させていただきます。本書は,金折教授が昭和46(1971)年春,大学3年生の時,進級論文のフィールド(天草下島)で断層に偶然出会ってから,今日に至る40余年におよぶ研究生活の集大成としてまとめられたものです。前半の20年(阪神・淡路大震災以前)はすでに,平成5(1993)年出版の『甦る断層−テクトニクスと地震の予知−』としてまとめられていますが,本書はそれを踏まえながら,おもにその後の20余年(大震災以降)の教育・研究に関する話題を取り上げておられます。特に,山口大学に赴任されて以来,おもな調査フィールドとされてきた中国地方の活断層や地震,津波およびそれらの伝承もふんだんに取り込まれており,興味深い内容となっています。

 本書のタイトルは,断層研究の草分け小藤文次郎が提唱した『断層地震説』にちなんだそうです。明治24(1891)年に起きたわが国最大の内陸地震:濃尾地震を詳しく現地調査した小藤文次郎は,地裂線が根尾谷断層と一致することから,「断層が動いて,地震が起きる」とする『断層地震説』を提唱しました。現在では,この考え方は広く受け入れられてきているので,『説』をとるとともに,海溝型地震は活断層地震と『連鎖』するので,タイトルを『断層地震の連鎖』としたと,“はじめに”のなかで書かれています。この間,著者はおもに野外で確認された断層を対象として,断層露頭を詳しく調査・解析してきたことから,サブタイトルとして『−断層との対話−』を加えたそうです。

 まず序章で,東日本大震災を誘発した東北地方太平洋沖地震を科学的に振り返りながら,想定されていた「宮城県沖地震」の関係について述べられています。この大震災から多くの教訓を学び,次に起きる南海トラフ巨大地震に誘発される西日本大震災に生かしていかなければならないことが強調されています。

 第1章では,これまでたびたび西日本を訪れている地震の活動期について詳しく解説されています。地震の活動期は,南海トラフで起きる海溝型地震の数十年前から始まり,そこで海溝型地震が起きると,しばらくして活動期が終わり,静穏期を迎えることになります。近年では,江戸時代末期の安政年間と,太平洋戦争前後の昭和年間に,地震の活動期が訪れており,活動期から次の活動期までは約100年間あったことが述べられています。今は,兵庫県南部地震から始まった“平成の活動期”のさなかにあることから,この活動時期の終焉を告げる次の南海トラフ巨大地震の想定内容に触れられています。
 兵庫県南部地震以降,著者は国内で発生した主な被害地震を対象として,活断層と地震被害の関係を把握するために,被災地に入り現地調査を行ってきておられます。第2章では,兵庫県南部地震とそれ以降に起きた大地震のうち,著者が携わった震災調査で感じたことなどを交えながら,地震と活断層,震災との因果関係が書きとめられています。

 兵庫県南部地震以降,「内陸地震は個々の活断層が動いて起きる」ことがあまりにも誇張されてきた感が否めません。しかし,頻発している内陸大地震は,活断層が個々に動いているのではなく,プレートの運動を反映して,海溝型地震やスラブ内地震と密接に関連して動いていることを実証しています。第3章では兵庫県南部地震以降,日本列島で発生した活断層(内陸)地震に関して得られた知見に基づいて,活断層と地震が捉え直されています。今まで活断層は「第四紀(後半)に活動した断層で,今後も活動する可能性が高い断層」とされていますが,「地震に伴って地表に現れた破断面で,地形に累積性が認められる断層」の方が正確とのことです。著者の持論は「最近のテクトニクスの範疇で,プレート運動で生じる応力場に呼応して,地質断層が再活動して内陸地震を起こし,その結果として地表に現れたものが活断層である。」ということで,専門外の私にも納得しやすいように記述されています。今後はテクトニクスの視点から地質断層の研究がますます重要になってくる,と結ばれています。

 私たちは悲惨な震災から,社会的にも学問的にも多くのことを学んできました。地震発生直後に,緊急地震速報や地震情報,そして「特別警報」が出されるようになりました。それによって,被害が軽減されてきていることも事実です。一方,活断層と地震に関しては,依然として克服できない問題も数多く残されています。第4章では,地震と津波に関して,基礎的な内容も含めて解説されるとともに,これまで蓄積されてきた知見や知識が整理してあり,地震と断層を深く理解することができます。

 第5章では,古地震像や,断層と地震に関わった人たちについての話題が,アラカルト的に取り上げられています。この章に登場する大森房吉,今村明恒,“萩市出身の高島北海”,小藤文次郎はいずれも,東京都小金井市にある多磨霊園に眠っています。地震学や地質学の草分けであるこれらの人々は,草葉の陰で平成の活断層と東日本大震災の勃発をどう思っているのでしょうか。

 著者は平成2(1990)年ころから,マイクロプレートモデルを提唱し,Tectonophysicsなどの国際誌に発表してきました。マイクロプレートの境界で,平成7(1995)年に兵庫県南部地震が起きて,阪神・淡路大震災を誘発しました。第6章では,プレートテクトニクスやマイクロプレートモデルを再訪問して,日本列島で発生した大地震や世界の大地震が概観されています。さらに,著者が断層の研究を始めることになった経緯を紹介しながら,中国地方に注目して,断層テクトニクスと活断層の運動(活断層地震)の実像に迫っています。

 第7章では,地震や震災を刻んだ石や古文書や史料の記録から,先人のメッセージを理解して,多くの教訓を学ぶ重要性が強調されています。碑文に刻まれた文字からは,当時の悲惨な震災の様子が生々しく伝わってきます。私たちの先祖は,どのような思いで,これらの石碑を刻んだのでしょうか。きっと,後世へ震災の悲惨さを教え,平素から地震に備えることを伝えたかったのではないでしょうか。私たちは,これらの教訓を,次の大地震に生かしていくべき責務を負っています。

 最後に,第8章では次に起きる南海トラフ巨大地震と活断層地震との因果関係および時系列について,詳しく解説されています。これまで,西日本ではスラブ内地震後数十年以内に,南海地震が起きてきました。平成13(2001)年芸予地震の発生によって,著者は次の“南海地震”の引き金は引かれた,と考えられています。“南海地震”が起きると,西日本大震災が誘発されます。来るべき大震災への備え,そして大震災から自分自身の体や命を守るためにしなければならないことを記して,本書が締めくくられています。

 「地震防災の第一歩は,突然大地震が起これば,自分や家族が被災すると思うことである」と警告されており,決して他人事ではないのです。今日,山口県に活断層や地震が少ないと誤解している方は少ないと思われますが,もし,今でもそのようにお考えの方がおられれば一読されたい。私は年度末の業務から解放され,桜の蕾が大きく膨らんだ頃に本書を楽しませていただいた。大変興味深く,途中で飽きることなく最後まで読み進んだ。1行の文字数や行数にも余裕があって,紙面が明るく,疲れない。

 本書は専門書に限りなく近い一般書が意図されており,大変読みやすい。一般の方々,防災関係者,断層地震関係の専門家,技術者,および将来地震防災に携わることを考えている学生には,大変有用な書だと思います。私たちに身近な山口県に関することが各所で述べられており,とくに山口地学会会員の皆様には広く本書のご一読をお勧めします。本書は以下で入手できます。

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