自然科学書出版  近未来社
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自然地下水調査法 −日本国内863箇所の地下水温−

【書評】

「日本地すべり学会誌」 2017年 54巻 4号 168P
新井場 公徳(消防研究センター)
 この本は,「地下の水のうごき」を調べてきた著者のライフワークの集大成である。巻末の資料「日本国内863箇所の地下水温データ」を見れば,この本の内容は,理論だけではなく,観察事実に基づいた実証的なものであることが分かる。
 この本は,地下水の専門家だけにとどまらず,地盤を舞台に仕事をする,技術者,行政の実務者,研究者におすすめである。特に,若手や中堅の技術者や実務者は,是非一度,手にとってみてほしい。地下水の流動の実態がカラーの写真や図で分かりやすく表現されており,そのイメージが掴めると思う。

 著者が地下水に関わるようになったのは,地すべり地における地下水の挙動を「温度」を手がかりに解明しようとしたのがはじめだったそうである。そこから,調査を行うための方法について研究と開発を進め,最終的には調査ボーリング孔の仕上げ方といった実務にまで深く掘り進めて研究を行い,まさに,地下水に関する「理論に裏打ちされた現場技術」が構築されるに至った。さらに,地すべり防止対策以外の分野=堤体の漏水や地下水汚染など,にも技術を応用している。また,理論的な現象理解とセンサー開発という二つの観点で模型試験を実施している。この本には,その考え方と結果が分かりやすく掲載されており,「地下水の流動」を読者が理解するのに役立つとともに,今後の研究と開発に有益な情報となっている。

 この本には著者のライフワークの全てがコンパクトにかつ端的にまとめられている。この一連の研究の間,著者には多くの苦労があったと想像できるが,読者は,淡々とした文章を読むだけで,たいした苦労なく知識を得ることが出来る。このような書籍で学ぶことができるわれわれ読者は,幸せだと思う。