近未来社
■断層列島
本書の発刊によせて

 金折裕司さんの快著『甦る断層』に推薦の一文を草したのは去年のちょうど今ごろであった。あの本は内容の面白さに加えて、著者の研究史としても興味深いものがあったので、それは楽しい作業であった。
 今度はその続編ともいうべき『断層列島』が上梓のはこびとなり、それにもなにか書けとのご注文があり、私に書けるかなと思った。その生産力にはおおいに敬意を表するものの、解説書とか、翻訳書ならいざしらず、研究者としての全力投球的著作がそうも矢継ぎ早やに毎年書けるものかしら、と危ぶむ気持ちがあったからだ。

 しかし、それは杞憂であった。著者は序章の冒頭で「前著を執筆してから、早や、一年が経過した。云々」というのである。これが著者の実感なのであれば、彼にとってこの一年は十分に長く、彼のなかには語りたいことが渦巻いていたらしいのだ。

 この期待は裏切られなかった。本書は『甦る断層』とおなじ出来栄えであり、その続編としてまことにふさわしい。今回もサイエンスとそれを進めてきた人間像が生き生きと描かれている。断層と地震の関係について、前書より専門的にたちいり、多くの人々の研究や考え方を紹介すると共に、著者自身の考えが随所に提示される。それらには“今後の課題”として提示されているものも多い。室戸岬、御前崎の上下運動と大地震の関係についての見直し提案などは特に私の関心をひいた。また、前書では中部日本に限定して議論された彼らの内陸地震モデル、すなわち内陸地震も明確に定義されるマイクロプレート境界での断層運動に起因し、しかもそれらの断層が“連動”するというモデル、が西部日本、東北日本にも具体的に展開されている。

 私などからみて、この著者の特にすぐれた一面は、研究がダムや原子炉の安全設計などを含む実社会の重要問題に深く関わっていることである。豊富な経験に基づく解説、記述は彼の著書を工学関係の方々にも極めて有用な読み物にしているものと思われる。

 地震予知には、多くの科学者がそれぞれの立場から何とか貢献したいと努力している。現在特に要求されるのは、地震予知の場を生き生きとした科学研究の場とすることであろう。それには他の研究者達との自由闊達な学問的コミュニケーションを盛んにし、他の人々のアイデア、特にいいアイデア、を吸収することが極めて大切だと思われる。この本には、傾聴すべき実に多くのことが書かれている。

1994年7月 上田 誠也
(東京大学名誉教授・東海大学教授・キサスA&M大学教授)

もどるホーム