近未来社
■活断層系
本書の発刊によせて

 本書“活断層系”は、金折裕司さんの“甦る断層”(1993)、“断層列島”(1994)に続く第3弾である。私にとっても“巻頭文”第3弾である。

 自然科学の醍醐味は、複雑な現象のなかに規則性ないし法則性を読みとり、それを理論的に理解するところにあるが、第1弾“甦る断層”では、皆目規則性も法則性も見えないとされてきた内陸直下型地震の起こり方について、マイクロプレート・モデルが提示された。私は前々からその考え方を支持するものであり、少なからぬ感銘をもって読ませて頂いた。そのほんの1年後の第2弾“断層列島”上梓にあたっては、そんなに短時日の間にもう一つ立派な本が書けるものかと危ぶむ気持ちがあったが、柳の下の泥鰌ではないが、それは杞憂であった。マイクロプレート・モデルを、中部日本から全国に敷衍するだけではなく、その1年に起きた北海道南西沖地震や、ノースリッジ地震などの経験をふまえて、持論の地震モーメント平均解放速度による地震危険度予測論などが展開された。

 今度は第3弾である。いかな金折さんといえども、そうは立て続けにというわけにはゆくまいとの心配は、またも杞憂だったようだ。言うまでもなく、第2弾以後には兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)という大事件が発生し、耐震工学上の日本神話を覆しただけでなく、従来の断層と地震の関係についての考えの未熟さを見せつけた。金折さんはこの事態に真っ正面から立ち向かったようだ。だからこそ、第3弾もしっかりと読ませる本になった。兵庫県南部地震では何が起きたのか、すなわちあの地震の“真犯人”を押さえた上での日本列島のマイクロプレート・モデルや、地震モーメント平均解放速度を指標とする危険度評価法の修正が展開される。それらはいずれも究極目標とはほど遠いが、一歩づつの進歩過程として興味深い。

 金折さんは今回“真犯人”となった高槻−六甲−淡路構造線を、既に前二書で、反時計回りに回転する大阪湾マイクロプレートの北西縁境界(有馬−高槻構造線)として注目していたが、あの段階では次の“犯人”としての目星は花折−金剛断層線南部につけておられたようだ(どちらが先に動くかは今のところ知るすべはない)。高槻−六甲−淡路構造線の南北端部に加えて、花折−金剛断層線南部、中央構造線東部、さらにはそれらに連動しての南海トラフの活動をより差し迫ったものとするらしい。

 また、阪神・淡路大震災以来の“活断層が地震を起こす”という表現に対し、金折さんは“断層系の活動が地震を起こす”というべきだと繰り返し主張する。地表で観察される活断層そのものは、地下の断層系の動きの結果の傷跡と見るべきだと言うわけで、これは当たり前のようだが、大切なポイントのひとつであろう。

 地震の予知は困難な道だ。特に、私が興味と意欲をもっている短期予知はそうだ。予知がすぐにも出来るかのごとき幻想を国民に抱かせてはなるまいが、予知など絶対にできる筈なしとして、研究を放棄したり、妨げたりするのはどうしても賛成することはできない。地震予知はこよなくchallengingな科学研究の目標なのである。金折さんの研究も地震の起こり方そのものに対する純粋な科学的興味に発したものに違いないが、長期的な危険度評価努力などを通じての地震災害軽減への情熱には深い共感を覚えるものがある。

1996年11月 上田 誠也
(東京大学名誉教授・東海大学教授・
 理化学研究所地震国際フロンティア研究リーダー)

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