近未来社
■災害地質学入門
本書の発刊によせて

 千木良雅弘さんは,昭和55年に東京大学大学院理学系研究科地質学専攻修士課程を修了されたのち,財団法人電力中央研究所において岩石の風化や崩壊を中心にした研究を約16年にわたって続けて来られましたが,その業績が高く評価され,平成9年2月に京都大学防災研究所の教授に迎えられました。

 防災研究所は,昭和26年(1951)に「災害の学理とその応用の研究を行う」ことを目的として京都大学に附置されました。発足当初はわずか3部門の構成でしたが,その後の社会情勢の変化に応じて順次整備拡張され,平成7年には16研究部門と4研究センターならびに7実験所・観測所を擁する全国的にも有数の大研究所に発展しました。さらに平成8年度には,防災学研究への社会的要請の変化と緊急性に対応するため,従来の研究部門・センター等を統廃合して5大研究部門と5研究センターへと組織改革を行い,研究所の設置目的を「災害に関する学理の研究及び防災に関する総合研究」に変更致しました。

 この改組により,京都大学防災研究所は全国の大学に利用される共同利用研究所に衣替えされるとともに,卓越した研究拠点(Center of Excellence)に指定され,同時にいくつかの研究分野・領域が新設されました。その一つが地盤災害研究部門の山地災害環境分野であります。この研究分野は,土石の移動とそれに伴う地形変動に関連して,山地で発生する多様な災害を予知し,被害の防止・軽減をはかるための研究を行うことを目的としていますが,その教授の最適任者として千木良さんが選任されたということです。

 いま大学は,一般の社会に開かれ,目に見える形で社会に貢献することが要求されています。本書は,地質学の立場から,地盤災害を理解し,研究するための入門書として,千木良さんがこれまでなされてきた研究成果を中心に分かりやすく取り纏めたものであり,改組後の防災研究所が社会に放つこの分野での第一弾であります。
 わが国では,近年,大規模の地盤災害が多発しています。平成7年1月のいまわしい阪神・淡路大震災を初めとして,8年2月の豊浜トンネル事故,8年12月の蒲原沢土石流,9年5月の八幡平の地すべりと土石流,9年7月の出水市の斜面崩壊と土石流など,枚挙にいとまがありません。わが国ばかりでなく,世界の各地で危険地への人間活動の場の拡大が見られるようになり,地盤災害の研究への要請が国際的にも高まっています。

 地盤災害が発生する度に「地質学的な視点からの検討」の重要性が指摘されてきました。千木良さんは,地盤災害に携わる数少ない地質学者の一人であり,地盤災害の研究に必要なさまざまな基礎的研究に取り組まれるとともに,基礎的研究に立脚して地盤災害の研究を進めてこられました。さらに,長年実務畑で培った経験が千木良さんの研究を実務的にも意義深いものにしています。

 本書は,千木良さんの研究成果に基づき,地盤災害に関連する地質学が平易に,しかも曖昧さを除いて,取り纏められています。水災害を専門とする小生にも納得させられる点が多々ありました。門外漢への啓発,おそらくそれが本書のねらいの一つでもあるのでしょう。さらに深く知りたいと願う人のために,多くの教科書や参考文献が示されているのも好ましいことです。

 本書が,地盤災害に興味ある多くの人に読まれ,地盤災害のメカニズムが理解され,被害の防止・軽減に向けての研究者と実務者との輪がより一層広がることを願っています。

1998年1月 今本 博健(京都大学防災研究所長)

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