近未来社
■大阪府陸産貝類誌
本書の発刊によせて

 この度、貝友の松村 勲さんが長年の調査・研究をされた結果を『大阪府陸産貝類誌』として刊行されましたことに対して心からお喜び申し上げます。前もってその草稿を拝見させて頂くとともに、刊行にあたって「発刊に寄せて」を書く栄誉を与えていただいたことにただただ恐縮しているところであります。

 松村さんとは1970年代に手紙のやり取りで交流がありましたが、初めてお会いしたのは1981年(昭和56年)8月中旬、橋本市三石山での観察会の時でした。それ以来、交流は現在に至っているところであります。

 平成6年に「大阪府種の多様性調査」が始まり、私は委員を拝命いたしましたが、当時勤務の多忙さから十分取り組めるには不安がありました。そこで松村さんをお誘いして一緒に取り組んだわけであります。大阪府のレッドデーターブックは松村さんのご努力がなかったらその全容が半減していたでしょう。松村さんも本書で述べているように、調査箇所277ヶ所の内、多様性調査中の3ヵ年で全調査の82%をこの期間に実施したようです。その結果、数々の新知見が蓄積されました。

 中でもクチミゾガイ類の新型の出現は多様性調査がなかったらおそらく陽の目を見なかったでしょう。1997年(平成9年)の正月明け、松村さんからの電話とお手紙でクチミゾガイ類が採取された旨の連絡を受けました。

 本類はこれまで中部地方から東北地方南部以外には分布を確認できていなかっただけに、大変驚いたわけです。さっそく5月の連休を待って、現地に案内をいただいて現地調査をして共同研究の結果、新亜種・reikoaeへの記載となったわけです。新亜種名は松村さんの貝類研究にご理解をされていた故玲子さんに鎮魂の意味をかねて献名できたことは、松村さんの亡き奥様への並々ならぬ深い愛情が感じられて目頭が熱くなる思いであります。

 大阪府における陸産貝類の調査・研究は、波部(1939)、東・波部(1939,1940)、東(1971,1986)の他はまとまった報告書がほとんどありませんでした。松村さんは「大阪府種の多様性調査」をしながら独自で詳細な調査記録を作成しておられたが、府のレッドデーターブック(2000年刊)は紙面の関係で詳細な記述ができないので、松村さんの努力の結晶を『大阪府陸産貝類誌』として集大成してはとお勧めしたわけです。

 本書には25科96種の種名が掲載されていますが、種の多様性調査の結果、新に確認された種は20種で、これは松村さんのフィールド活動による成果でしょう。確認された96種の内、現在も分類学的に未解決な種群(例えば、ベッコウマイマイ科など)は今後における検討によって、所属の変更などが起こることが予想されるだろう。本書は大阪府の陸産貝類調査結果の分析と調査記録(これこそ松村さんの努力の結果)、情報機器に強い松村さんらしい繊細さで処理された図版(例えば、デジタル処理された写真、分布図、キセルガイの図版)などは見事というほかありません。これまでも幾つかの府県の陸産貝類誌が刊行されていますが、私は、松村さんの暖かい人間性が滲み出している本書を“陸産貝類”の良書としてここに紹介させていただきます。

平成13(2001)年8月8日 湊 宏(日本貝類学会評議員)

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