近未来社
■山口県の活断層
はじめに

 このところ、私たちの住んでいる山口県でも地震による強い揺れを感じることが多くなってきた。3月20日午前10時53分に起きた福岡県西方沖の地震では震度3〜4の強い揺れを感じた。まさか福岡で地震が起きるとは思ってもいなかった。平成7(1995)年1月17日午前5時46分に阪神・淡路大震災として歴史に名を留める兵庫県南部地震が発生して以来、西日本では平成12(2000)年に鳥取県西部地震、平成13(2001)年に芸予地震が相次いで発生して、この地域が地震の活動期に入ったことを窺わせる。兵庫県南部地震の2年前に出版された小著『甦る断層−テクトニクスと地震の予知』の中で、“私たちはこの地震のない静穏期をいつまで楽しむことができるのだろうか”と書いた。そのときには、2年後にこのことが現実になろうとは思ってもいなかったのである。

 そうしているうちに、平成16(2004)年10月23日午後5時56分には新潟県中越地震が発生して、斜面崩壊による土砂災害や地すべりで河川が堰き止められ、山間地域に大きな被害が出た。さらに、同年12月にはスマトラ沖で発生した海洋地震に伴って起きた大津波で、数十万人に及ぶ犠牲者が出たことは記憶に新しい。

 このように多大な犠牲を払った地震災害から私たちは何を学び、後世に何を伝えていかなければならないのであろうか。地球の鼓動ともいうべき莫大なエネルギーを持った地震の発生を食い止めることは、現代の科学・技術を駆使しても、もはや不可能であることは言うまでもない。一方では、研究は続けられてはいるものの、地震の予測も現状では難しい。私たちにできることは、地震に関する正しい知識を持ち、来るべき大地震に備えていくことではないか。

 新潟県中越地震の発生後から私のもとへも、山口県内の地震と活断層に関する問い合わせが多く寄せられるようになった。福岡県西方沖の地震が起きてから、その傾向はさらに強まってきた。そのようなこともあって、私の研究を通じて得た地震と活断層についてわかり易くまとめ、多くの方々に理解してもらうことを思いついた。

 平成9(1997)年4月に私は山口大学に着任すると早速、山口県中央部をフィールドとして断層の調査を開始した。翌年には山口盆地を大きな活断層が通る可能性を指摘し、それを“大原湖断層系”と名づけた。その後細々と研究を続けてきたが、平成14(2002)年には『山口大学断層テクトニクス研究グループ』を結成して、この断層系の調査を本格的に開始した。その調査から思いにもよらず、この断層系を構成する活断層がわが家の直近を通過することが判明した。

 本書では、まず第1章で最近頻発した地震の概要を述べる。活断層の活動や地震の発生を巨視的に捉えるため、第2章では私が提示したマイクロプレートモデルについて概説し、そのモデルの中で断層運動や地震活動を位置づける。第3章では活断層について正しい認識を持ってもらうために、活断層の見つけ方や活断層に関する基礎的な知識を説明する。さらに、第4章では、地震に関連する現象とその基礎的な事項を解説する。

 活断層と地震およびテクトニクスに関して正しい認識をもち、基礎的な知識を理解した上で、第5章からは、事例研究のフィールドとした山口県内の活断層について、その性状や分布を詳しく述べる。特に、私が研究の中心に据えてきた大原湖断層系については、調査に関わるエピソードを交えながら、さらに詳しい説明を加える。第6章では山口県に被害を与えてきた地震について解説するとともに、近い将来発生することが想定される“南海地震”について、これまで得られている知見をまとめる。最後に、地震に対する防災対策に触れる。

 本書の前半は、阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)直後に、朝日新聞社から出版された小著『足元に活断層』の続編ともいうべきものである。この大震災のあとに地震と活断層に関して研究や調査が進み、新しい知見が数多く得られている。私のフィルターを通してみたそれらの知見に関してわかり易い解説を試みる。

 本書のタイトルを“山口県の活断層”としたように、本書の後半は山口県内の活断層と地震について、これまで明らかにされてきたことを述べる。このタイトルは山口県に限定されているような印象を与えるが、日本列島全域に関わる多くの問題を含んでいる。山口県を事例研究のフィールドとして、そこから多くの事実を学んで欲しいのである。ひょっとしたら、あなたの家のそばに活断層があるかも知れない。

 本書の読者として、活断層と地震に関心を持つ一般の方々や、そのことを学びたいと思っている高校生と大学生、さらに自然災害やその防災対策に関連した実務に携わっている技術者や地方自治体の防災担当者の方々を想定している。多くの方々に読んでいただき、活断層と地震に関して正しい認識をもってもらうことを切望する。そのことが、地震防災につながると確信しているからである。

平成17(2005)年 6月 金折 裕司

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