近未来社
■内陸地震はなぜ起こるのか?
書評 (地質ニュース 2010年8月号より)

 内陸地震(陸域の地殻内で発生する地震)は、プレート境界で発生する地震に比べ、判っていないことが多い。本書は、内陸地震についての最先端かつ有望な仮説を、仮説提唱者である著者自身が、丁寧な用語解説とともにわかりやすく書き記したものである。したがって、大竹政和東北大名誉教授が巻頭言で述べているように、「この本を丸ごと鵜呑みにするのではなく、ときにはうなずき、ときには疑問符を挟みながら」読んでほしい。その一方で、この本の持つワクワク感・躍動感も感じてほしいと思う。
 本書は下記の章により構成されている。

 第1章 水平断層仮説の誕生―長野県西部地震の発生機構―
 第2章 水平断層仮説と兵庫県南部地震
 第3章 内陸地震はなぜ起こるのか?
 第4章 内陸地震の発生と下部地殻
 第5章 内陸震源断層深部すべり過程のモデル化
 第6章 内陸地震の発生過程に関する定量的なモデル
 第7章 鳥取県西部地震
 第8章 続発する内陸地震

 第1・第2章で、1984年長野県西部地震(マグニチュード6.8、死者・行方不明者29名)と1995年兵庫県南部地震(本書ではマグニチュード7.2となっているが後に気象庁は7.3と改訂している、死者・行方不明者6,437名)の観測データと解析結果が紹介され、どのように水平断層仮説が生まれたかが説明される。第3−4章で、その仮説が、従来の内陸地震研究における課題とどのように関与するのかが述べられ、第5−6章では、著者の卓越したリーダーシップで生まれた研究プロジェクトが、仮説をより定量的なモデルにしていく様子が語られる。第7章以降では、得られたモデルを2000年以降に発生したマグニチュード7前後の地震(2000年鳥取県西部地震・2004年新潟県中越地震・2005年福岡県西方沖地震等)で検証するとともに、観測データから得られた新たな知見をもとにさらに発展させていこうとする姿勢が語られている。

 著者は意識していないだろうが、本書には、著者の持つ4つの優れた特質も語られている。1つは、卓越した観測者として、現象の本質に迫るデータを得るために単純に突進する姿である。それは、1984年長野県西部地震直後の(交通遮断された)震源地に、単身徒歩で山越えをして入り、テントに泊りながら貴重な観測データを取得した記載に現れている。2つ目は、うっかりと見過ごしがちな観測事実を重要な結果として認識する優れた観察力である。それは、長野県西部地震の断層モデルの一部におけるわずかな正断層成分や兵庫県南部地震の震源域周辺に認められる伸張歪やお椀型の震源分布等を重要な観測事実とする記載に現れている。3つ目は、そのようにして得られた一見ばらばらに見える観測事実と従来の知識・理論を統合して1つのシンプルな説得力のある仮説を作り上げる著者の能力である。4つ目は、得られた仮説を検証し発展させるために、研究プロジェクトを考案し実行してしまうリーダーシップである。

 本書は、内陸地震に関する最新の仮説の紹介であるとともに入門書ともなっている。加えて、卓越した地震学者である著者の魅力も語られている。多くの方に読んでほしい。

小泉 直嗣(産総研 活断層・地震研究センター)

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