近未来社
■内陸地震はなぜ起こるのか?
本書の刊行に寄せて

 この本は,内陸地震の解明に挑む研究現場からのホットな報告である。ここで言う「内陸地震」とは,陸地の地殻浅部(多くは深さ15km以浅)で発生するプレート内の大地震を指す。地震防災の見地からもとりわけ注視すべき地震である。

 明治時代から現在まで140年あまりの間に,わが国は死者千人を超える大震災に11回も見舞われた。その内,6回までが内陸地震によるものである。1995年の阪神・淡路大震災の惨禍から,私たちは内陸地震の恐ろしさを改めて教えられた。この本も,著者自身のあの日の体験から始まる。

 最近10年ほどの間に,プレート沈み込み帯の科学的理解はめざましい進歩を遂げてきた。とくに,プレート境界を繰り返し破壊する巨大地震については,かなり的確に全体像がつかめるようになった。その一方で,内陸地震の発生メカニズムはなお不明なところが多く,研究者の苦闘が続いている。なぜだろうか?

 内陸地震研究の最大の困難は,取り扱う時間スケールの長さにある。1つの活断層から大地震が発生するのは数千年に1回であり,地震の準備から発生までの全過程を観測で追跡することは望めない。このような状況の下で,地震発生のモデル,すなわち観測事実と科学的な推論に基づく仮説がとりわけ重要な役割を担うことになる。観測や実験による検証を通じて,ある仮説は破棄され,ある仮説はより高度なものへと発展して行く。

 著者の飯尾能久さんは,内陸地震の発生には流動的な下部地殻が深く関与していることをいち早く見抜き,そこで進行するゆっくりした滑りが地震の発生をもたらすという新しいモデルを提唱された。その内容は,本書の5章と6章で詳しく述べられている。この着想に至った道筋は,1〜4章でじっくりと追うことができる。最後の8章では,内陸地震研究の今後の展望が熱く語られている。

 飯尾さんは,深い洞察力と果敢な行動力を備えた気鋭の研究者である。数々の観測に精力的に取り組みながら,地殻変動,地質,地殻物性など幅広い分野の研究者と真摯な対話と討論を重ねてこられた。飯尾さんの主唱で始まった「陸域震源断層の深部すべり過程のモデル化に関する総合研究」(当時の科学技術振興調整費によって1999年から5年間にわって実施)は,その典型的な場だった。私にとっても,飯尾さんと親しくお付き合いする契機となった思い出深い研究プロジェクトである。

 その当時のメンバーを含めて,この本には大勢の研究者が実名で登場する。年齢や専門分野も多彩なこれらの方々は,著者の研究上の師であり,同志であり,協力者であり,また手強い論敵でもある。こうした広い連携の下で,内陸地震の発生メカニズムの研究はまさに現在進行形で発展しつつある。

 読者の皆さんは,この本を丸ごと鵜呑みにするのではなく,ときには深くうなずき,ときには疑問符を挟みながら読み進んでほしい。既成の解釈や常識に安住することなく,疑問をぶつけ合いながら真実に迫って行こう・・・これが著者の一貫した研究姿勢であり,読者に伝えたいメッセージなのだから。

 もし内陸地震のすべてを解明し尽くしたとしても,そこですべてが終わるわけではない。その先には,地震の発生を事前に予知するという,さらに大きな課題が控えている。この大いなる挑戦に,あなたも加わってくる日を著者は待ち望んでいるに違いない。

 地震に関心をもつすべての皆さんに,魅力と興奮に満ちたこの一冊をお奨めしたい。

2009年1月 大竹 政和(東北大学名誉教授・地震予知連絡会会長)

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