近未来社
■地質のフィールド解析法
書評(日本地質学会 News 14号より)

 層序学、古生物学、堆積学や構造地質学など、地質学を研究する上で、野外調査は基本となる。そのためのマニュアルは幾つも出版されている。それらの多くは、これから野外調査を始める人に対してのものである。しかし、本書は、地質調査の基本的な技術は既に体得している大学生や応用地質の研究者や技術者を対象にしたものである。6つの章で取り上げられた方法は、いずれも著者が研究したものを例にしたので、地質学的な問題点に対するデータ処理と解決に立ち向かう時の考え方が具体的に示されている。

 第1章の「野外地質調査」では、古典的な地質調査法と著者の言う新しい野外地質調査解析法が説明されている。古典的な地質調査は地質図、地質断面図、地質柱状図を作成する方法で、新しい野外地質調査解析法は古典的な地質調査により得られた正確な地質図を基に、堆積相解析や地質構造解析を行うこととしている。

 第2章の「現成堆積物と過去の堆積物との比較」では、岐阜県南部を流れる現在の木曽川と長良川の河床礫の配列、堆積構造やサイズからそれらの運搬過程を読み取り、その知識を基に同地域内に分布する第四系の砂礫層の形成過程を解釈した。

 第3章の「断層の解析法」では、線構造や平面に関して、ステレオネットを用いてそれらの方位を決定し、地質学的な3次元での問題を簡単に解く方法が説明されている。そして、堆積性の共役断層のセットを用いて、その断層を生じた当時の堆積環境と古応力場について、ステレオネットを用いた解析を明快に実例した。

 第4章の「褶曲の解析法」では、露頭規模の褶曲から地域の褶曲構造を理解する方法が示されている。特に、褶曲軸の傾動の復元は懇切丁寧である。

 第5章の「地層の重なり方の解析法」では、岩相の異なる地層の重なりには規則性があり、その規則性を統計的な手法により明らかにできることが説明されている。房総半島の上総層群のタービダイトを例に規則的な積み重なりを統計的に解析し、それらのパターンの多様性は堆積環境の相違を示した。そして、堆積相の積み重なりの相違を判定する尺度を提案した。

 第6章の「新たな野外調査法への取り組み」は、「オリオリ褶曲」の提案である。これは、円筒形のペットボトルや飲料用の缶を上下方向に強く圧縮すると連続して折り畳まれる菱形のしわ構造ができることに基づく。そのため、この褶曲は一度の変形で生じ、曲面を呈する地球上の岩石や地層に対して様々なスケールで起こっているとするものである。この変形過程を用いると地球規模の凸凹や地域の褶曲形態を統一的に理解できるとするものである。

 本書で、著者が最も主張したいことは作業仮説として、褶曲変形構造の新しいアイディアの「オリオリ褶曲」の提案であろう。このアイディアが不動のものになるため、これからいくつもの事例が論文として出版されることになるだろう。その意味で、本書はそのきっかけである。著者の言う古典的な地質調査法による野外調査に対する著者の疑問は、ステレオ投影図法による断層や褶曲の解析、統計法を用いた地層の重なりの解析へと発展し、著者の提案する「オリオリ褶曲」を産みだした。それらの転換の繋がりが示されていれば、学問を作り出す過程が示され、より魅力的な本になっていたであろう。
 本書では、古典的な地質調査法による例として紹介者の研究事例が示されている。これは、著者と10年以上にもわたり手取層群の研究を進めている研究結果の一端である。その間、堆積盆地の発生について紹介者は著者に常に説明を求めていた。「オリオリ褶曲」の提案はそのきっかけを与えたと紹介者は信じている。古典的な地質調査法が“新しいアイディア”を産んだのである。

松川 正樹(東京学芸大学教授)

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