近未来社
新刊書紹介  ■千木良雅弘:写真に見る 地質と災害−応用地質の見方・考え方−
「地学ニュース」書評(2016 Vol.125 No.4,N63p)
 本書は,愛知県名古屋市で自然災害科学・土木工学・地質学など「土と自然」に関わる自然科学系の専門図書の刊行を中心に出版活動を続けている近未来社の創立25周年記念出版物として刊行されたものである。
 著者の千木良雅弘先生は,京都大学防災研究所(地盤災害研究部門・山地災害環境研究分野)の教授であり,岩石の風化と変形,斜面崩壊などの侵食現象,削剥作用による地形の不安定化など地質災害に係わる分野を長年研究され,またその科学的成果を防災・減災に役立てることに長年取り組んでこられた斯界の権威である。これまでに日本応用地質学会会長や日本学術会議連携会員などを歴任され,学会活動や学術会議の提言・報告等を通して学術の社会的貢献にも大きく寄与されてこられた。
 本書では,地質災害をよく知り,また長年学生の教育にも取り組んでこられた著者が“地質学の詳しい知識なしでも地質災害をよりよく理解する手掛かりとなるため”さまざまな工夫を凝らされている。まずは目次の構成である。著者は,“大地の悠久な営みを理解して,その流れの中で生じる地質現象が災害を発生させるということを理解していただくことが不可欠と思い,目次を構成しました”と書かれている。本書は全14章からなり,各章の中には節に相当するテーマが置かれ,合計194項のテーマ毎に簡潔な解説と,解説にふさわしい写真・図版388枚が掲載されている。各テーマには平均2枚程度の写真・図・表が添えられていることになるが,書名にふさわしく圧倒的に写真が多いのが特色である。以下に各章の章題を紹介し,章毎のテーマ数を()内に記す。

第1章 山を崩す(23)
第2章 地中の水(15)
第3章 雨(3)
第4章 山から川へ(9)
第5章 川の侵食(11)
第6章 氷河(9)
第7章 川から海へ(7)
第8章 海(7)
第9章 風の働き(3)
第10章 地質の構造(23)
第11章 火山(23)
第12章 地中の熱 (5)
第13章 地震(17)
第14章 風化(39)

 また,著者は次のようにも述べている。“本書の特色は,すべて1ページ1主題で読み切りのようになっていることです。また,できるだけ説明が少なくて済む写真を準備しました。もともとスライドを作るようにして原稿を準備したので,文章の方は付属になっています。写真をみれば,文章は斜め読みで大丈夫ということを理想としました。見出しと写真を見て内容を思い浮かべていただけると良いのですが。”この言葉に違わず,各テーマを端的に示す写真・図版が選ばれており,視覚的な理解が容易な良書となっており,多くの方々に一読をお勧めしたい。(ただし,第1章「山を崩す」の最初のテーマ「集団移動と地崩れ」のみは文字解説のみで写真・図版がないのは少し残念であったが…)
 本書は,著者のこれらの工夫や配慮により,興味のある部分から,あるいはパラパラと斜め読みすることも可能である。しかしながら,評者としてはまず長めの6ページにわたる「まえがき」と実質2ページほどの「あとがき」から読みはじめることをお勧めしたい。著者の問題意識や,現在の地質災害に関する科学的知見の限界,あるいは土砂災害警戒区域等の指定や土砂災害警戒情報の発表など法的枠組みの課題などが述べられており,これらを踏まえた上で各テーマを読むことにより,地質災害をより深く理解できるのではないかと考えるためである。
(塚本 斉)
もどるホーム